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高松高等裁判所 昭和24年(ツ)5号 判決 1952年8月25日

上告人 控訴人 申請人 債権者 藤田千鶴栄

訴訟代理人 網野林次

被上告人 被控訴人 被申請人 債務者 藤田三喜男 外一名

訴訟代理人 小林博美

主文

本件上告を棄却する

上告費用は上告人の負担とする

理由

上告代理人網野林次の上告理由及被上告代理人小松博美の答弁は何れも別紙記載の通りである。

上告理由第一点について。

原判決は上告人と被上告人藤田三喜男の先代藤田雪子との間に農地につき紛争が生じ、昭和二十一年十月二十三日高知区裁判所において調停が成立し、本件土地の九畝十歩の部分の賃借権及五畝四歩の部分の所有権は何れも雪子のものであること及同年十二月末限り上告人よりこれを雪子に引渡すことに定められたが雪子は昭和二十二年五月調停調書に基く強制執行により上告人より右土地を取上げた事実を認定し、右強制執行による土地の引渡については村農地委員会の承認を要しないと判断したことは所論の通りである。しかして農地調整法第四条第一項に言う「権利の移転」とは、権利の客体たる農地自体の移転を指称するものではなく農地等を正当に使用収益することの権利の移転を言うのであつて、賃借が適法に終了した後借地人より土地の所有者若くは賃借権者その他正当権利者に土地を返還するのは同法条に言う権利の移転に当らないこと原判決所説の通りである。故に被上告人先代藤田雪子が上告人より本件土地の引渡を受けるに際し村農地委員会の承認を得なかつたからと言つて違法と言うことはできない。所論は右と見解を異にし原判決を批難するものであつて採容の限りでない。

よつて本件上告は理由がないから民事訴訟法第四百一条第九十五条第八十九条により主文の通り判決する。

(裁判長判事 石丸友二郎 判事 萩原敏一 判事 呉屋愛永)

上告代理人網野林次の上告理由

第一点原判決は、債務者雪子(被上告人)は既に他家に嫁していたが偶々戸籍が抜けていなかつたため之を相続したものであること、債権者(上告人)は夫死亡当時から前記調停成立後である昭和二十二年五月頃まで引続き此の土地を耕作していたこと、雪子は元来農耕を好まないのみならず右調停成立以前から既に病気のため前記の調停条項により本件土地の引渡を受くべき昭和二十一年十二月末頃に至るも尚自ら此の土地の耕作出来ない健康状態にあつたことの疏明があり、しかも千鶴栄と雪子とは各別個の世帯を持ちながら千鶴栄は雪子に対し耕作のため賃料の約束も支払もしていないことが推測出来る。以上の事実を綜合して考えると千鶴栄は本件土地につき少くとも調停成立後は使用貸借上の権利を持ちこれを耕作していたものと考えるのが相当である。

更に本件土地を昭和二十二年五月前記調停調書に基いて強制執行で取上げたこと及之が取上げには村農地委員会の承認なきことは当事者間に争なし、と断じ、而して上告人の右取上げは昭和二十二年五月であるから第二次改正農地調整法附則第二項によつて同法第四条(施行令第二条第二項)が適用されるから村農地委員会の承認を受くべきである処之を受けずして為したる取上は同法第四条によつて無効であるとの主張(第一、二審判決)に対し、原判決は、「右農地法の(移転)とは本件のような元来の所有権者又は賃借権者がその土地の耕作をしている使用貸借上の権利者の権利を消滅させその結果として元来の所有権者の耕作権が複活する場合は含まれないものと考うべきであるからその承認は必要でない」と断じている。

然れども同法第四条の移転とは権利そのものの移転は勿論権利の客体目的たる農地自体の移動をいうものと解す、故に甲より乙、乙より丙と農地が移動し今度は逆に丙より乙、乙より甲と逆移動する場合も当然に含むと解するのが農地の耕作者の地位の安定を図るを以つて目的とする農地法(第一条)の趣旨よりしても至当である。

されば原判決が耕作権の復活は移転にあらずとして上告人の主張を排したのは明かに法律の解釈を誤りたる違法の判決であると信ず。

仍つて原判決を破毀し相当の御裁判あらんことを求める次第あります。

被上告代理人小松博美の答弁

本件上告は之を棄却すとの御判決相成度し

答弁の理由 農地調整法第四条の規定に依る許可又は承認を必要とする権利の設定又は移転なるものは原則として当事者の意思表示に基く場合を狙いたるものにして従て強制執行、競売、収用其の他権利関係に胚胎する一方的の場合(時効、自然的現象の場合亦同断)は之に該当せざるものなると共に之に関連して権利の原状恢復又は旧主復活の如き場合も亦同様之が適用を排除さるるものとす。故に本件の如き調停裁判の執行として権利の復帰恢復されたる場合は右法条の適用なきものと謂はざるべからず。原判旨亦茲に出て其の帰結を同じうするものなるを以て論旨は理由なきものと思料仕候

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